子どもたちの読書の時間: 15 分
昔、錠前屋の仕事を習い覚えた若い男がいて、父親に、もう世間に出て運を試してみる、と言いました。「よかろう。わしもそれに賛成だ。」と父親は言って、旅のお金をいくらか渡しました。そこで若い男はあちこち旅をして仕事を探しました。しばらくして男は錠前屋の仕事はもうやめようと決めました。というのはもうその仕事が好きでなくなって猟師になりたかったからです。
男があてもなく歩いていると緑の服を着た猟師と出会いました。猟師は、お前はどこから来たんだ?どこへ行くんだい?と尋ねました。若者は、私は錠前屋の職人なのですが、その仕事はもう面白くないので猟師になりたいのです、私に教えてもらえませんか、と言いました。「ああ、いいとも」と猟師は言いました。「おれと一緒に来るならね。」そこで若者は猟師と一緒に行き、そこで何年か修業をつみ、猟師のわざを習いました。このあと、若者はよそで運を試してみたいと思いました。猟師は一丁の空気銃の他は何も支払ってくれませんでしたが、その銃は撃つと必ず当たるという性質がありました。そこで若者はでかけていき、とても大きな森に着き、一日で森のはずれにたどりつけませんでした。夜になると若者は野のけものを避けるために高い木に登りました。
真夜中近くに、遠くで小さな明かりがちらちらするように思われました。そこで若者は枝の間からそちらを見下ろし、どこにあるかよく覚えておきました。それでも下りたとき目印とするため、最初に帽子をとって明かりの方へ投げておきました。それから木から下り、帽子のところへ行き、またかぶって、まっすぐ進みました。
進めば進むほど明かりは大きくなり、近くへ行ってみると、それはとてつもなく大きな火だとわかりました。三人の巨人がそのそばに座り、串に刺した一頭の牛を焼いていました。まもなく一人が「肉の焼き具合がいいか食ってみよう」と言って、かたまりを引きちぎって口に入れようとしました。とその時、猟師は銃を撃ち、巨人の手から肉を飛ばしました。「おっと、しまった」と巨人は言いました。「風で肉が飛んでしまったわい」それでまたべつの肉をとりました。しかし、それにかみつこうとしたちょうどそのとき、猟師はまた撃って飛ばしました。これでその巨人は隣に座っていた巨人に平手うちを食らわせ、「なんでおれから肉をひったくるんだ?」と怒ってどなりました。「ひったくっていないぞ」ともう一方の巨人は言いました。「狙い撃ちのうまいやつがお前の肉を撃ってとばしたにちがいない。」巨人は別のかたまりをとりましたが、また手に持っていることはできませんでした。というのは猟師が撃ち飛ばしたからです。すると巨人は「口のところから撃ってとばすなんて相当の腕だぞ、そんなやつは仲間なら役にたつんだがな。」と言いました。そうして大声で叫びました。「こっちへ来いよ、鉄砲名人よ、おれたちのそばに来て、火のところに座り、たっぷり食いな。お前に何もしないよ。だが、来ないで力づくで連れて来なきゃいけないんなら、お前の命はないぞ。」
それで若者は巨人たちに近づいていき、私は腕利き猟師だ、私の銃で狙ったものは必ず当てるんだ、と言いました。そこで、巨人たちは、おれたちと一緒に行ってくれれば良くもてなすがな、と言い、森のはずれに大きな湖がある、その後ろに塔が立っていて、塔の中に美しい王女が閉じ込められているんだ、その王女を是非とも連れて来たいんだ、と話しました。「いいとも」と若者は言いました。「すぐに王女をとってやるよ。」それから巨人たちは付け加えて、「だがな、まだほかに問題があるんだ。ちんころがいるんだが、だれかが近くにいくとすぐ吠え出すんだ。それでそいつがほえると王宮のみんなが目を覚ましてしまう。それでおれたちはそこに行けないのさ。そのちんころを撃ち殺すのを引き受けてくれるか?」と言いました。「いいよ」と若者は言いました。「そいつは面白そうだ。」
このあと、若者は舟に乗り、湖をこいで渡りました。陸にあがるとすぐ、小犬が走ってきて吠えようとしました。しかし猟師は空気銃を出し、撃ち殺しました。巨人たちはそれを見ると喜び、もう王様の娘を無事に手に入れたようなもんだぜと思いました。しかし猟師はまずどんな様子か見たいと思い、巨人たちに、呼ぶまで外で待っていてくれ、と言いました。それから城に入っていくと、中はまるでしんとしてみんな眠っていました。最初の部屋の戸を開けると、壁に刀が下がっていて、それは純銀でできており、上に金の星と王様の名前がついていました。またその近くのテーブルに封をされた手紙があったので若者が破って開けると、この刀を持つ者は歯向かう何でも殺せる、と中に書いてありました。そこで猟師は壁から刀をとり、腰に下げて進んでいきました。
それから王様の娘が眠っている部屋に入りました。王女はとても美しかったので若者は立ち止まり、息を飲んで眺めました。若者は心の中で考えました。(けがれない乙女をどうして荒くれ巨人たちのなすままにさせられよう?悪いことを考えているのに?)さらに見回すと、ベッドの下に一足の室内履きがあり、右足には星と父親の名前が、左足には星と王女自身の名がついていました。王女は金の刺繍がされた絹の大きなスカーフをつけていましたが、その右側には父親の名が、左には王女自身の名が金文字でありました。そこで猟師は鋏をとり、右端を切りとって背のうに入れ、また王様の名前が付いている右の室内履きも背のうに投げ込みました。さて乙女はまだ横たわって眠っていて、寝巻にすっかりくるまっていましたが、寝巻も少し切りとって投げ込んで他の物と一緒にしましたが、全て王女に触れないでやりました。それから猟師は出ていき、王女を眠らせたままにしておきました。
門のところに戻ると、巨人たちはまだそこに立ち、王女を連れてくるものと期待しながら猟師を待っていました。しかし、猟師は巨人たちに、入って来てくれ、乙女はもう手のうちにある、あんたたちに門を開けてやることはできないんだが、這って通れる穴があるから、と叫びました。そこで一人目の巨人が近づいたとき、猟師は巨人の髪を自分の手に巻きつけて頭を引き込み、刀を一振りして切り落とし、それから残りの体を引っぱりこみました。二人目の巨人を呼んで同じように頭を切り落とし、それから三人目も殺しました。こうして猟師は美しい乙女を敵の手から自由にしたことを喜びました。それから巨人たちの舌を切りとって背のうに入れました。そうして、猟師は(お父さんのところへ帰ってどんなことをもうやったか知らせて、そのあと、世の中を旅して歩こう。おれはきっと神様が喜んでおれにくださる幸運にあえるさ。)と思いました。
しかし、城の王様が目覚めると、三人の巨人が死んで転がっているのを見ました。そこで娘の寝室に入り娘を起こして、いったい誰が巨人たちを殺したのだろう?と尋ねました。すると王女は、「お父様、私は知りませんわ。眠っていましたもの。」と言いました。しかし、王女が起きあがって室内履きをはこうとしたら、右足がなくなっていました。スカーフを見ると切られて右端がありませんでした。寝巻を見るとこれも少し切りとられていました。王様は城じゅうの宮廷人を、兵士やそこにいる他のものも、みんな呼び出して、誰が娘を自由にし巨人たちを殺したのか、と尋ねました。
さて、王様には片目でひどく醜い大尉がいました。この大尉が、私がやりました、と名乗り出ました。そこで年とった王様は、お前がこれをなしとげたのだから娘と結婚させよう、と言いました。ところが、乙女は、「お父様、あの者と結婚するくらいなら、世間に出ていき、足の続くかぎり歩いていきたいですわ。」と言いました。しかし、王様は、もしお前が大尉と結婚する気がないなら、王家の服を脱ぎ百姓の服を着て出て行け、焼物師のところに行き、瀬戸物の商売を始めるがよい、と言いました。
それで王女は王家の服を脱ぎ、焼物師のところへ行って、店に必要な瀬戸物を借り、夕方までに売ってお支払いします、と約束しました。それで王様は娘に、隅に座って売るがよい、と言っておいて、何人かの百姓には瀬戸物の上を荷車でひいて全部こなごなにこわれるように手配しました。それで王様の娘が通りに店を広げると、荷車が通りかかり、品物を全部小さなかけらだらけにしてしまいました。王女は泣きだして、「ああ、これで焼物のお金をどうやって払ったらいいの?」と言いました。一方王様はこうして王女を無理に大尉と結婚させようと思っていたのでした。しかし、娘はそうしないで、また焼物師のところへ行き、もう一回貸してもらえませんか?と頼みました。焼物師は、「だめだ、もう借りてる分を支払ってくれ。」と言いました。
そこで王女は父親のところに行き、泣いて嘆き悲しみ、「世間に出ていきます。」と言いました。それで王様は「外の森にお前のために小さな小屋を建ててやろう。そこに一生とどまってみんなに料理をしてやるがよい。だが金を受け取ってはならぬぞ。」と言いました。小屋ができあがると、戸に「今日はただ、明日は売ります」という看板が下がっていました。そこに王女は長い間とどまっていました。そして、お金をとらないで食事をだしてくれる娘がそこにいるんだ、入口の外にそう書いてある看板がある、と世間で噂されました。
猟師もそれを聞き、(それはいい、おれは貧しく金が無いからな)と思いました。そこで空気銃と、証拠の印として城から持ってきたものが全部まだ入っている背のうを持ち、森へ入って行き、「今日はただ、明日は売ります」と看板がかかっている小屋を見つけました。
猟師は三人の巨人の頭を切り落とした刀を帯びたまま、小屋に入り、何か食べ物をくれと頼みました。猟師は美しい乙女にうっとりしました。まさに絵に描いたように美しかったのです。娘は、あなたはどこから来てどこへ行くのですか、と尋ねました。猟師は「私は世間を旅しているのです。」と言いました。すると、娘はどこでその刀を手に入れたのですか?私の父の名前が上についているんですが、と尋ねました。猟師は、あなたは王様の娘なんですか?と尋ねました。「はい」と娘は答えました。「この刀で」と猟師は言いました。「私は三人の巨人の頭を切り落としたのだ。」そして証拠に背のうから巨人たちの舌をとり出しました。それから、室内履きやスカーフの隅や寝巻の切れはしも王女に見せました。これで王女は大喜びして、あなたこそ私を救ってくれた人です、と言いました。そうして二人は一緒に年とった王様のところへ行き、小屋へ王様を連れて行きました。そこで娘は王様を部屋に入れ、猟師が本当に巨人から私を救ってくれた人だと話しました。そして王様がその証拠の品々を見ると、もう疑うことはできなくて、出来事がすっかりわかってとてもよかった、猟師がお前を妻にするべきだ、と言いました。それを聞いて乙女は心から喜びました。それで王女は猟師によその国の君主のように服を着させ、王様は祝宴の用意をさせました。
みんながテーブルについたとき、大尉は王様の娘の左側に座りましたが、猟師は右側に座りました。それで大尉は猟師が訪ねてきたよその国の君主だと思っていました。みんなが飲んだり食べたりしてしまったあとで、年とった王様は大尉に、お前に解いてもらいたい謎を出そう、と言いました。「だれかが、三人の巨人を殺したと言ったとする、その巨人の舌はどこにあるか?と聞かれ、その男はしかたなく見に行ったのだが、舌はなかったのだ。いったいどうしてそうなったのかね?」大尉は、「それでは巨人に舌は無かったはずです。」と言いました。「いいや違う。」と王様は言いました。「動物にはみな舌がある。」それから同じように、そのような嘘の答をした者にはどんな罰を与えるべきか、と王様は尋ねました。大尉は、「八つ裂きにされるべきです。」と答えました。すると王様は、お前は自分の判決を言い渡したのだ、と言いました。大尉は牢屋に入れられ、そのあと四つ裂きにされました。一方王様の娘は猟師と結婚しました。そのあと、猟師は父親と母親を呼び寄せ二人は息子と幸せに暮らしました。また、年とった王様が死んだあと、猟師は国を受け継ぎました。

背景情報
解釈
言語
「腕のいい狩人」というグリム兄弟の物語は、主人公の錠前屋の若者が猟師に転身し、不思議な銃とともに様々な冒険をする物語です。この物語の主なテーマには、才能の発見と成長、正義の実現、そして真実の愛があります。
物語の中で、若者は緑の服を着た猟師に師事し、猟師としての技術を習得します。猟師としての技を磨いた若者は、特別な力を持つ銃を手に入れ、それを使って困難な状況に対処していきます。物語のハイライトは、若者が三人の巨人を倒し、王女を救出する場面です。この部分では、勇気と機転が試される状況が描かれ、物語の緊張感を高めています。
また、物語は正義が報われることを描いており、偽りで成果を得ようとした大尉は自らの嘘で罰せられ、真実を尽くした若者が報われる展開となっています。最終的に若者は王女と結婚し、幸せな生活を手に入れ、国を治めることになります。
その中で興味深いのは、若者が最初に錠前屋としての道を歩み始めるものの、本当にやりたいことを見つけて新たな道を選ぶ点です。この選択が冒険と成長の鍵となり、物語全体の流れを形作っています。
「腕のいい狩人」は、能力の発見と活用、正義と愛が勝利する物語として、多くの教訓を含んでいます。この物語は、グリム兄弟の典型的なスタイルである、道徳的要素と幻想的な要素が調和した物語の一例です。
グリム兄弟の物語「腕のいい狩人」に関するさまざまな解釈があります。この物語は、単なる冒険譚だけでなく、いくつかの深いテーマを探ることができます。以下はそのいくつかの解釈です:
自己発見と変容の物語:主人公はもともと錠前屋の職人でしたが、猟師に転身することを選びます。この変化は、自己発見と新しい能力を開発することの重要性を示しています。また、自らの手で運命を切り開く意志を持つことが強調されています。
正義と報酬のテーマ:物語の後半で、偽りを告げた大尉が処罰され、真実を告げた主人公が報われる展開は、正義と報酬のテーマを描いています。真実が必ずしもすぐに認められるとは限りませんが、最終的には報われるという教訓が含まれています。
知恵と勇気の勝利:主人公は知恵と勇気を持って巨人を倒します。物語は、力だけでなく知恵を使うことの重要性を示します。また、物語の進行中で見せた彼の勇気と機知は、大きな課題を乗り越えるための鍵となります。
女性の解放と役割:物語の中で王女は単なる受動的な存在ではなく、父親と対立しながらも自らの意志を表現します。彼女の意志と行動は、当時の物語における女性の役割に対する新たな視点を提供しています。
運命と偶然の絡み合い:物語では、偶然の出会いや出来事が重要な転機となります。主人公が巨人に出会ったり、王女を救ったりする場面では、運命と偶然が複雑に絡み合っています。
「腕のいい狩人」は、その単純なプロットの背後に、多層的なメッセージが含まれており、読む人によってさまざまな解釈が可能です。どの解釈を取るかによって、物語の楽しみ方や教訓が変わってくるかもしれません。
グリム兄弟のメルヘン『腕のいい狩人』は、典型的な冒険と試練の物語として、多くの興味深い言語学的特徴と文化的要素を含んでいます。この物語の言語学的・文化的分析をいくつかの観点から見てみましょう。
語彙と表現の選択: 「巨人」「猟師」「塔」「王女」など、物語に頻出する基本的な語彙は、ファンタジーと冒険物語の典型的な要素を強調しています。
– 描写に使われる形容詞、例えば「美しい」「とてつもなく大きな」などは、視覚的なイメージを豊かにしている。
構文と文体: 物語は一貫して過去形で語られ、伝統的な昔話の語り口となっています。
– 短い文とシンプルな構文が多く、物語のテンポを早めています。また、対話形式も取り入れることで登場人物の個性を引き立てています。
対話とキャラクターの特徴づけ: 各キャラクターの対話から、性格や意図がわかりやすく示されています。例えば、巨人たちは粗野で単純な言葉を用い、一方で狩人は冷静で賢い様子が伺えます。
文化的分析
道徳と教訓: この物語には、誠実や勇気、知恵が報われるという道徳的な教訓が含まれています。大尉の不誠実が罰せられる一方、狩人の善行が最終的に報われる展開です。
社会構造と価値観: 王家と巨人、狩人の対比は、当時の社会的ヒエラルキーや異なる価値観を反映しています。巨人は力を象徴し、王家は権威を、狩人は知恵と勇気を象徴します。
性別と役割: 王女の役割には、受動的であるが、自らの意思で運命を切り開こうとする様子が描かれています。これは、女性が物語の中で能動的に参加する例でもあります。
このように『腕のいい狩人』には、言語学的にも文化的にも多くの分析ポイントがあり、物語が持つ普遍的なテーマと19世紀の社会的文脈を理解するための手がかりが詰まっています。