子どもたちの読書の時間: 12 分
昔、ある兵士がいました。長年忠実に王様に仕えてきましたが、戦争が終わると、受けたたくさんの傷のためもう仕えることができなくなりました。王様は兵士に、「家に帰ってよろしい。もうお前は必要ない。金ももうやらんぞ。給金は見合う働きをした者だけ受けるのだからな。」と言いました。それで兵士はどうやって暮らしをたてたらよいのかわからず、大いに困って立ち去り、一日中歩き、とうとう夕方には森に入りました。暗くなると明かりが見えて、近づいていくと、魔女が住んでいる家につきました。「どうか一晩泊めてください、それと少し食べ物と飲み物をください。」兵士は魔女に言いました、「そうしないと私は飢え死にしてしまいます。」「おや!」と魔女は答えました、「逃げてきた兵士に誰が食べ物をやるかね?だけどまあ、かわいそうだから、私の望むことをやるなら、入れてやってもいいよ。」「何をして欲しいんですか?」と兵士は言いました。「明日、私の庭の周りをぐるりと掘って欲しいのさ。」兵士は承知し、次の日、力いっぱい働きましたが夕方までに終えることができませんでした。「十分よくわかるよ」魔女は言いました「今日はこれ以上やれないとね。だけど、あす積み荷のたきぎを切って、小さく割ってくれたらもう一晩おいてもいいよ。」兵士はそうするのにまる一日かかりました。そして夕方に魔女はまた一晩泊らないか、と言いました。「明日はほんのちょっとした仕事をしてもらうだけさ。この家の後ろに古い涸れた井戸があって、その中に私の明かりが落ちたんだよ。青くもえて、消えることはないんだよ。それをとってきてもらいたいのさ。」
次の日おばあさんは兵士を井戸に連れて行き、かごに入れて下ろしました。兵士は青い明かりを見つけ、また引き上げる合図をしました。魔女は確かに引き上げましたが、兵士が縁まで来ると、手を伸ばして青い明かりを兵士からとろうとしました。「だめだ」と兵士は魔女の悪巧みを知って言いました、「地面に両足で立つまでは明かりを渡さないよ。」魔女は怒って兵士をまた井戸に落として、行ってしまいました。
可哀そうな兵士は湿った土に怪我をしないで落ち、青い明かりは燃え続けていましたが、それが何の役に立ったでしょう?兵士はこれでは死んでしまうととてもよくわかりました。しばらくの間、とても悲しく座っていました。それから急にポケットの中をさぐると、たばこのパイプが見つかり、まだ半分たばこが詰まっていました。「これを最後の楽しみとしよう。」と考え、ポケットから引っ張り出すと、青い明かりで火をつけ、たばこを吸い始めました。煙が穴の中に回ったとき、突然小さな黒い小人が兵士の前に立ち、「ご主人さま、ご命令は何でしょう?」と言いました。「おれの命令は何か、だって?」と兵士はすっかり驚いて、答えました。「私はあなたが命令することを何でもしなければならないのです。」と小人は言いました。「よろしい。」と兵士は言いました。「じゃ、最初にこの井戸から出してくれ。」小人は兵士の手をとり、地下の通路を連れて行きましたが、兵士は青い明かりを持ってくるのを忘れませんでした。途中で小人は、魔女が集めそこに隠した宝物を見せ、兵士は持てるだけ多くの金をとりました。井戸から出ると、兵士は小人に「今度は年とった魔女を縛りに行ってくれ、それで裁判官の前に連れていくんだ。」と言いました。
まもなく、魔女がヤマネコに乗り、恐ろしい叫び声をあげながら風のように通りすぎました。またまもなく小人が現れ、「終わりました。魔女はもう首つり台にぶら下がっています。次のご命令は何でしょう?ご主人様」とききました。「今のところ、何もない」と兵士は答えました。「お前は帰ってもよいが、呼んだら、すぐ来るようにしておいてくれ。」「青い明かりでパイプに火をつけるだけでいいんです。他は必要ありません。そうすれば私はすぐにご主人様のところに現れます。」そう言って小人は消えていなくなりました。
兵士は自分が出て来た町へ戻りました。一番良い宿屋へ行き、りっぱな服を注文し、宿の主人に部屋にできるだけすばらしい家具を入れてくれるよう告げました。用意ができると兵士はその部屋に入り、小さな黒い小人を呼び、「おれは王様に忠実に仕えてきたが、王様はおれをくびにして、腹をすかせておいたんだ。それで今おれは仕返しをしたいんだ。」と言いました。「私は何をすればよろしいですか?」と小人は尋ねました。「夜遅く、王様の娘が寝ている時、眠ったままここに連れて来い。娘に女中の仕事をさせてやる。」小人は、「それは私には簡単なことですが、ご主人様にはとても危険なことです。もし見つかればひどいことになりますよ。」と言いました。12時になると、戸がパッと開き、小人が王女を運び込みました。「へえ、お前はそこか?」と兵士は叫びました。「すぐに仕事にかかれ。ほうきをとって部屋を掃け。」王女がこれをやってしまうと、自分の椅子のところにこいと命令し、足を伸ばして、「長靴を脱がせろ」と言い、それから長靴を娘の顔に投げ、もう一度拾わせて、きれいに磨かせました。ところが王女は、反対もしないで命じたことを全部黙って、目を半分閉じて、やりました。最初のおんどりが鳴くと、小人は王宮に王女をもどし、ベッドにねかせました。
次の朝、王女は起きると父親のところへ行き、とても変な夢を見たと話しました。「私は稲妻のようなはやさで通りを運ばれていって、兵士の部屋へ連れていかれたのよ。それでその兵士に女中のように仕えなければいけなかったの。部屋をそうじしたり、長靴を磨いたり、召使がやる仕事を全部よ。ただの夢だけど、今、本当にみんなやったみたいに疲れてるわ。」「夢は本当だったのかもしれないぞ。」と王様は言いました。「お前にいいことを教えてやろう。ポケットにえんどう豆をいっぱい入れて、ポケットには小さな穴を空けておくんだ。それでお前がまた連れていかれたら、豆が落ちて、道に跡ができるだろう。」しかし、王様に見えなくして、小人は王様がそれを言っている時そばにたっていて、全部聞きました。夜に眠っている王女がまた通りを運ばれた時エンドウ豆はたしかにポケットから落ちましたが、跡はつきませんでした。というのは賢い小人はそのちょうど前にどの通りにもエンドウ豆をまいておいたからです。そして今度も王女はおんどりが鳴くまで女中の仕事をせざるをえませんでした。
次の朝、王様は家来をやって跡を捜させましたが、無駄でした。というのはどの通りにも貧しい子供たちが座りこんでエンドウ豆を拾いながら、「夕べ、エンドウ豆が降ったにちがいないよ。」と言っていたからです。「何かほかのことを考えねばなるまい。お前は寝るとき靴を履いたままでおれ。それで連れ去られたところから帰る前に、そこに片方の靴を隠しておくのだ。わしはすぐにそれを見つけるとしよう。」と王様は言いました。黒い小人はこの計画も聞いていて、夜に兵士がまた王女を連れて来いと命令したとき、それを兵士に打ち明けて、この策略を防ぐ方法を知りません、もしもその靴が兵士の家で見つかればひどいことになります、と言いました。「命じたことをやれ。」と兵士は答え、この3晩目もまた王女は召使のように働かなければなりませんでしたが、立ち去る前にベッドの下に靴を隠しました。
次の朝、王様は娘の靴を町中で捜させました。それは兵士のところでみつかり、兵士自身は、小人の頼みで町の門の外に出てしまっていましたが、すぐに連れ戻され、牢屋に入れられました。逃げるときに、兵士は持っていた一番大事なもの、青い明かりと金、を忘れてしまい、ポケットにたったダカット金貨一枚しか入っていませんでした。今鎖でつながれ、地下牢の窓のところに立っていましたが、たまたま兵士仲間の一人が通りかかるのが見えました。兵士は窓ガラスをたたき、この男が近くへ来ると、「頼むから、おれが宿に置いてある小さな包みを持って来てくれないか、お礼に一ダカットやるよ。」と言いました。
兵士の仲間はそこへ走り、望みのものを持ってきました。兵士はまた一人になるとすぐ、パイプに火をつけ、黒い小人を呼び出しました。「恐れることはありません。」と小人は主人に言いました。「あの人たちが連れて行くどこへでも行って、やりたいようにやらせてください。ただ青い明かりを忘れないで持っていてください。」次の日、兵士は疲れました。何も悪いことをしていないけれども、裁判官は死刑を言い渡しました。死刑場に連れて行かれる前に、兵士は王様に最後の頼みをお願いしました。「それは何かね?」と王様は尋ねました。「途中であと一回たばこを吸ってもよいかということです。」「3回吸ってもよいぞ。ただし、わしがお前の命を助けるなどとは考えるなよ。」と王様は答えました。それで兵士はパイプを出し、青い明かりでそれに火をつけました。煙の輪が2,3昇ったらすぐに、小人が手に小さなこん棒を持ってそこに出てきて、「ご主人さま、ご命令は何でしょう?」と言いました。「不実な判事とその警備、を殴り倒せ、それからおれにとてもひどい扱いをした王様も容赦するな。」それで小人は稲妻のように襲いかかり、サッとあちこち動いて、そのこん棒に触れた誰もが地面に倒れ、二度と動こうとしませんでした。王様は恐れおののいて、兵士に、ただ生きてるだけでよいと許しを乞い、国を兵士に与え、娘を妻に与えました。

背景情報
解釈
言語
「青いランプ」はグリム兄弟によるメルヘンの一つで、困難な状況に陥った兵士が知恵と魔法の力を駆使して運命を逆転させる物語です。この物語では、兵士が王に裏切られて困窮し、魔女の家にたどり着くところから始まります。魔女が欲していた「青いランプ」は単なる灯りではなく、兵士に幸運を運ぶ不思議な力を秘めていました。
物語の中で、青いランプの煙によって現れる小さな黒い小人は重要な存在で、兵士の命令を何でも遂行する力を持っています。この力を使って、兵士は魔女を倒し、王に復讐を果たし、最終的には自らの運命を好転させます。
この物語は、正義が最終的に勝利するという教訓や、不当に扱われた者が力を取り戻すというテーマを伝えています。また、権力者に対する逆襲や魔法の力がもたらす変化という要素もあり、読者に痛快な印象を与えるでしょう。物語の最後で、王国と王女を手に入れる兵士の姿は、努力と知恵によって運命を切り開くことの重要性を示しています。
『青いランプ』はグリム兄弟による物語であり、様々なテーマや教訓が込められています。この物語の主な解釈としては、忠誠と不公平、力と知恵、復讐と許しなどが挙げられます。
忠誠と不公平: 兵士は王に対して長年忠実に仕えてきたにもかかわらず、怪我を理由に簡単に追い出され、報酬も与えられなかった。この不公平な扱いが物語の発端となっており、忠誠が必ずしも報われないことを示しています。
力と知恵: 魔女の家での出来事や青いランプの力を得た兵士によって、物語は力が単に肉体的なものではなく、知恵や策略によっても得られることを示しています。小人という強力な存在を手に入れたことにより、兵士は自らの運命を変えていきます。
復讐と許し: 兵士は不当な扱いを受けた王と魔女に対して復讐を果たしますが、最終的には王に許しを求められ、和解が成立します。この部分は、復讐が完全な解決策ではなく、許しや和解が重要であることを教えています。
物語全体を通じて、異なる立場や状況における人間の行動や選択がどのように結果をもたらすかを考えさせられる内容になっています。また、幻想的な要素をもちながらも、現実に通じる深い洞察が含まれています。
「青いランプ」はグリム兄弟の有名な童話で、多くの興味深い言語学的要素があります。この物語は、典型的なメルヘンの構造とテーマを持っており、以下のような特徴があります。
設定と登場人物: 物語の舞台は、広大な王国とその周辺の自然(森や井戸)で設定され、無名の兵士と王様、魔女、王女、そして小人といった典型的なキャラクターが登場します。登場人物は一般的に名前を持たず、彼らの役割や職業が名前の代わりになっています。
ストーリーの構造: 物語は一般的に三部構成に分けられます。最初に兵士が不当な扱いを受けて放逐される場面、中盤で彼が青いランプという魔法のアイテムを手に入れる場面、そして最後に兵士がその力を用いて復讐を果たし、報われる場面です。この三部構成は他の多くのグリム童話でも見られ、物語に流れる一貫したリズム感をもたらします。
テーマとモチーフ: 労働と報酬:兵士は忠実に仕えたにもかかわらず報酬を得られないことで物語が始まります。これは功績に対する報酬の欠如をテーマにしています。
– 魔法と願望の成就:青いランプは兵士の願いを叶える力を持ち、物語の転機をもたらします。このような「願望成就」のモチーフは古典的なメルヘンに共通する特徴です。
– 正義と逆転の力:最終的に兵士が不義に対して正義を取り戻す点、そして社会的地位が逆転する点が物語の中心です。
象徴とメタファー: 青いランプ:このアイテムは未知の力や未来の可能性を象徴しており、それによって兵士は自らの運命を変える力を得ます。
– 魔女と小人:魔女は試練や障害を象徴し、小人は助けや未知の世界への案内役を担っています。
言語スタイル: 物語の言葉遣いは比較的直線的で明瞭です。これは口伝いで伝えられ、多くの人々に理解されやすいスタイルを意図したものです。また、リズムや繰り返しのパターンが物語に一貫性を与え、聞き手の記憶に残りやすくなっています。
「青いランプ」は、伝統的な物語の構造を持ちながらも、個別のテーマやキャラクターに独自性を持たせることで、読みやすくも深いメッセージ性を持つ作品となっています。