子どもたちの読書の時間: 4 分
昔、息子が一人いる貧しい女がいました。息子はとても旅にでたがりましたが、母親は、「お前はどうやって旅ができるの?お前が持って行くお金がうちにはないんだよ。」と言いました。すると息子は「自分で何とかするよ。いつも、あまり無い、あまり無い、あまり無い、と言うことにする。」と言いました。
そこで息子はしばらく歩いていき、いつも「あまり無い、あまり無い、あまり無い」ととなえていました。すると、漁師たちが集まっているところを通りかかり、「ご幸運を!あまり無い、あまり無い、あまり無い」と言いました。「何だと?若造、あまり無い、だと?」そして網が引き出されるとあまり魚が入っていませんでした。そこで漁師の一人が若者を棒でなぐり、「どうだ、二度となぐられたいと思わないだろう。」と言いました。「じゃ、何て言えばいいんですか?」と若者は尋ねました。「いっぱいつかまえろ、いっぱいつかまえろ、と言うんだ」
そのあと、若者はしばらく歩き、「いっぱいつかまえろ、いっぱいつかまえろ」と言っていましたが、首つり台のところにさしかかりました。そこでは可哀そうな罪人がいて、しばり首になるところでした。それで若者は、「お早う、いっぱいつかまえろ、いっぱいつかまえろ」と言いました。「何だと、この野郎、いっぱいつかまえろ、だと?悪い奴が世の中にもっといると言いたいのか?これでたくさんじゃないのか?」そうしてまたまた背中をさんざんなぐられました。「じゃ、何て言ったらいいんですか?」と若者は言いました。「神様、あわれな魂にお慈悲を、と言うんだ」
また若者はしばらく歩いていき、「神様、あわれな魂にお慈悲を」ととなえていました。すると、みぞにさしかかり、そこでは解体人が立って馬を解体していました。若者は「お早う、神様、あわれな魂にお慈悲を」と言いました。「何だと?この意地の悪い悪党め」と言って解体人は横っ面を強くひっぱたいたので、若者は目がくらみました。「じゃ、何と言えばいいんですか?」「腐った肉はみぞに入ってろ、と言うんだ」
それで若者はまた歩いていき、いつも「腐った肉はみぞに入ってろ、腐った肉はみぞに入ってろ」ととなえていました。そうして人がいっぱいのっている馬車のところに来ました。そこで若者は「お早う、腐った肉はみぞに入ってろ」と言いました。すると馬車がみぞに落ち、御者はむちをとり若者をうちすえました。若者はしかたなくやっとこさ歩いて母親のところへ戻り、死ぬまで二度と旅に出ませんでした。

背景情報
解釈
言語
この物語は、グリム兄弟の「旅にでる」という童話の要約です。この物語では、旅に出たがる一人息子の冒険が描かれています。彼は旅先で出会った人々に対して、適切ではない言葉をかけてしまうことで、その都度トラブルに巻き込まれます。
物語は、彼が母の注意を振り切って旅に出る場面から始まります。旅の途中で「あまり無い」という言葉を繰り返していた彼は、漁師たちにぶつかり、誤解を招いて叩かれます。その後、言葉を変えて「いっぱいつかまえろ」とすると、今度は縛り首にされる罪人たちに出くわし、また叩かれます。次には「神様、あわれな魂にお慈悲を」と唱え続けると、解体人に誤解されて罰を受け、最終的には「腐った肉はみぞに入ってろ」と言い続けたことで、馬車をみぞに落とす原因を作ってしまいます。
彼は旅先での失敗を通じて、言葉の選び方や使う場面の重要性を学びますが、その経験から旅を諦め、母のところに戻り二度と旅に出ることはありませんでした。この物語は、言葉の力とその使い方についての教訓を伝えていると言えるでしょう。
この物語は、旅を通じての学びと人生の教訓を描いたグリム兄弟の寓話です。物語の主人公は、旅に出たいと願う貧しい青年で、旅の途中でさまざまな出会いを通じて言葉の選び方の重要性を学びます。
物語の重要なポイントは以下の通りです:
旅への憧れと現実: 主人公は旅に出ることを夢見ていますが、経済的な制約に直面します。それでも旅を始め、自らの工夫で問題を解決しようとします。
言葉の影響と学び: 道中で出会う人々が、主人公の不用意な言葉に対して強く反応し、主人公はその都度打たれたり叱られたりします。これにより、適切な言葉を選ぶことの重要性を学びます。
社会との関係: 漁師、処刑人、解体人、御者といった様々な職業の人々とのやり取りを通して、社会の一員としてどう振る舞うべきかを考えさせられます。
教訓的結末: 最終的に彼は何度も辛い目に遭い、家に戻って二度と旅に出ないと決心します。この結末は、若者の未熟さと失敗からの学びを象徴しています。
この物語は、適切なコミュニケーションの大切さや現実と向き合うことの重要性を教えており、単なる冒険談以上の深い教訓を含んでいます。
このグリム兄弟のメルヘン「旅にでる(または『旅立ち』)」は、物語を通じていくつかの重要な教訓とテーマを描いています。以下にその言語学的およびテーマ的な分析を試みます。
繰り返しの効果: 物語では「お前はどうやって旅ができるの?」や「いつも、あまり無い、あまり無い、あまり無い」といったフレーズが繰り返されます。これは物語のリズムを作り、主人公の心情や置かれた状況を強調しています。
対話と口伝: グリム童話はもともと口伝えで伝わってきた物語なので、対話を通じて物語が展開されることが多いです。この物語でも、若者と出会う各人との対話を通じて、場面が展開され、教訓が伝えられています。
言葉の力: 言葉が持つ力や影響力が、この物語では中心的なテーマとなっています。若者が言葉を誤って使うことで、意図せぬ結果を招くという教訓が示されています。
テーマと教訓
知識と経験の重要性: 物語は、経験が不足している若者が、異なる状況で「正しい」言葉を見つけることができず、その結果問題に巻き込まれる様子を通して、経験と知識の重要性を教えています。
社会的規範と状況判断: 各場面での若者の失敗は、社会的な文脈や状況を理解しないことから生じます。このことから、社会的状況に応じて適切に行動することの重要性を示しています。
旅の象徴性: 旅は一般に成長や発見の象徴とされますが、この物語では、主人公が最終的に旅をやめる選択をすることで、過酷な現実との対比が描かれています。
打ちのめされることの連続: 若者は繰り返し打たれることで、言葉の重要性や状況の判断力を身をもって学びます。これにより、痛みや困難が成長や学びにつながることが示唆されています。
この物語は、シンプルなプロットの中に深い教訓を含み、読者に思慮深いメッセージを伝えています。