子どもたちの読書の時間: 9 分
大きな戦があり、王様にはたくさんの兵士がいましたが、給料を少ししかあげなかったので、兵士たちは暮らしていけませんでした。それで三人の兵士が内緒で逃げることに決めました。一人の兵士があとの二人に、「つかまれば首つり台につるされるぞ。どうやってやるんだ?」と言いました。もう一人が、「あの大きな麦畑を見ろよ。あそきに隠れたら、誰も見つけられないさ。軍隊はそこに入ってはいけないんだし、明日出ていくんだからね。」と言いました。三人はうまく麦の間に這っていきましたが、ただ軍隊は出発しないで、そのまわりにい続けました。三人は二日二晩麦の中にとどまって、とてもお腹がすき、死ぬばかりになりました。しかし、もし出ていけば、死ななくてはいけないのが確かでした。それで三人は、「ここで惨めに死ななければならないなら、逃げて何の役に立つんだ?」と言いました。
しかし、火のような竜が空を飛んできて、三人のところに下り、どうしてそこに隠れているのかと尋ねました。三人は、「おれたちは、給料がひどすぎるから逃げてきた三人の兵士なんだ。それで今、ここにいれば飢え死にしなくてはならないだろうし、出て行けば首つり台にぶらさがらなくてはならないのさ。」と答えました。「もしわしに7年仕えてくれれば」と竜は言いました。「だれもお前たちをつかまえないように軍隊の中を連れ出してやるぞ。」「おれたちには選べないよ。受けるしかない。」と三人は答えました。
それで、竜は三人を爪でつかむと、軍隊の上の空中を運び去り、そこから離れた地面にまた下ろしました。しかし、竜は他ならぬ悪魔でした。悪魔は三人に一本の小さなムチを渡し、「そのムチをぴしゃりとうつと、ほしいだけいくらでもまわりに金がとびだし、お前たちは大だんなのような生活をし、馬をもって馬車ででかけることができる。だが、7年経ったら、お前たちはおれのものになるんだ。」と言いました。それから悪魔は三人の前に本を出し、三人とも署名させられました。「だが、先ずお前たちになぞを出そう。」と悪魔は言いました。「それでそのなぞを解けたら、お前たちは自由でわしの力から解放されるとしよう。」それから竜は飛んで三人から去って行きました。
三人はムチを持ってでかけ、金をたっぷり持ち、ぜいたくな服を注文し、世界を旅しました。どこにいようと三人は楽しくぜいたくに暮らし、馬に乗り、馬車ででかけ、飲んで食べましたが、悪いことはしませんでした。時はあっというまに過ぎ、7年が終わりに近づいてきたとき、二人の兵士はひどくくよくよして不安になりましたが、三人目の兵士は気楽に考えて、「兄弟、こわがることはないよ。おれにはまだ知恵がある。なぞを解いてみせるさ。」と言いました。三人は野原にやってきて座り、二人は悲しそうな顔をしていました。
するとおばあさんが三人に近づいて来て、どうしてそんなに悲しいのか尋ねました。「そうだなあ」と三人は言いました。「それがおばあさんとどんな関係があるんだ?結局、あんたにはどうにもできないんだもの。」「そうかな?」とおばあさんは言いました。「いいから困ってることを打ち明けてごらんよ。」それで三人は、7年近く悪魔に仕えてきて、悪魔は干し草のように金をくれたんだが、悪魔に自分を売ったんだ、それで7年の終わりになぞを解けなければ悪魔のものにされてしまう、と話しました。
おばあさんは、「もし救って欲しいなら、だれか一人が森へ入って行くんだよ。そこで小さな家のように見える崩れた岩に着くから、その家に入りなさい。そうしたら助けてもらえるよ。」と言いました。二人のくよくよしている兵士は心で、「そんなんじゃやはり助けにならないよ。」と考えて、今いるところにとどまりましたが、三人目の陽気な兵士は立ち上がり、歩き続けて森へ入り、岩の家を見つけました。その小さな家にはとても年とったおばあさんがいて、悪魔の祖母でした。それで兵士に、どこからきたのか、ここに何の用があるのか、と尋ねました。兵士はおばあさんにことの次第を話しました。おばあさんは兵士を気に入ったので、可哀そうに思い、助けてやろうと言いました。おばあさんは穴倉の上にのっていた大きな石を持ち上げ、「そこに隠れているんだ。ここで話されることが全部聞こえるからね。ただじっとして、動かないんだよ。竜が帰ってきたら、私がなぞのことをきいてみるよ。あの子は私に何でも話すんだ。だから何と答えるかよくおきき。」
夜の12時に竜はそこへ飛んできて、夕食を頼みました。おばあさんは食卓の用意をし、食べ物と飲み物を出しました。それで竜は喜んで、二人は一緒に飲んで食べていました。二人で話しているうちに、おばあさんは、今日は一日どうだったか、魂はいくつとれたか、尋ねました。「今日は何もあまりよくいかなかったよ。」と竜は答えました。「だけど、三人の兵士をつかまえてあるんだ。あいつらはまちがいなくおれのものだよ。」「本当に?三人の兵士ねえ、ずる賢いよ。まだ逃がれるかもしれないよ。」悪魔は嘲りわらって、「あいつらはおれのものだよ。なぞを出すんだ。あいつらにはぜったい解けやしないさ。」と言いました。「どんななぞだい?」とおばあさんは尋ねました。「話すとね、大きな北海に死んだツノザメがいる。それを焼き肉にするんだ。クジラのあばら骨は銀のスプーンで、穴のあいた年とった馬のひづめはワイングラスにするんだ。」
悪魔が寝てしまうと、年とったおばあさんは石を上げて、兵士を出しました。「全部ちゃんと聞いたかい?」「はい」と兵士は言いました。「十分わかったので、大丈夫です。」それから、兵士は別の道を通らなくてはいけないので、窓からそっと出て、大急ぎで仲間のところへ行きました。兵士は二人に、悪魔がおばあさんに裏をかかれたこと、悪魔の言っていたことからなぞの答えがわかったことを話しました。それでみんな喜んで、元気よくなり、ムチをとってたくさん金を出したので、金はそこらじゅうにあふれました。
まるまる7年が過ぎ、悪魔は本を持ってやってきて、署名を見せて、「これからお前たちを地獄に連れて行く。そこでお前たちに食事を出す。どんな焼き肉を食べなくちゃいけないか当てることができれば、お前たちは自由で取引からも解放されるし、ムチももっていてよい。」と言いました。すると最初の兵士が初め、「大きな北海に死んだツノザメがいる。 それが間違いなく焼き肉だ。」と言いました。
悪魔は怒って、「フン、フン、フン」とつぶやき始めました。それから、二人目の兵士に、「だが、おまえたちのスプーンは何だろな?」と尋ねました。「クジラのあばら骨。それが銀のスプーンになる。」悪魔はしかめ面をして、また「フン、フン、フン」と唸りました。三人目の兵士に、「それで、何がワイングラスになるかもわかるのか?」と言いました。「年とった馬のひづめがワイングラスになる。」すると、悪魔は大きな叫び声を上げて飛んでいき、三人をもう好きなようにできなくなりました。しかし、三人の兵士はムチをとっておき、好きなだけたくさんお金を打ち出して、死ぬまで幸せに暮らしました。

背景情報
解釈
言語
これは、「悪魔とそのおばあさん」というグリム兄弟の童話の要約です。この物語は、貧しい給与のために逃げ出した三人の兵士が悪魔と取引をする話です。彼らは悪魔の助けで軍隊から逃れ、悪魔から与えられた魔法のムチで豊かな生活を送ります。しかし、取引の期限が来ると、彼らは悪魔のもとに行かなくてはなりません。
悪魔は兵士たちに謎を解いたら契約を解放すると言いますが、その謎を教えてくれたのは悪魔のおばあさんでした。兵士たちはおばあさんから謎の答えをこっそりと教えてもらい、その結果、悪魔との契約を解消します。その後、兵士たちは与えられたムチを使って金を生み出し、生涯幸せに暮らしたという話です。
この物語には、知恵と助けによって困難を乗り越えるテーマが含まれており、また、道徳的な教訓として、欲望や契約には注意が必要であることを示唆しています。グリム兄弟によるこのような民話・童話は、19世紀のドイツを中心に収集され、多くが教訓的な内容を持っています。
「悪魔とそのおばあさん」は、グリム兄弟によるメルヘンの一編で、物語の中心には欲望と知恵、救済のテーマがあります。この物語は、いくつかの重要な要素を通じて解釈されることができます。
契約と自由: 兵士たちは悪魔との契約によって一時的な富と幸福を得ますが、その契約は彼らを悪魔のものにするという恐ろしい結末を伴います。これは、短期的な欲望や利益を追求することで、長期的なリスクや代償を無視してしまう人間の傾向を象徴しています。
知恵と勇気: 三人目の兵士は物語の中で知恵や勇気を体現しています。彼は、困難な状況に直面しても落ち着き、解決策を見つける能力を持っています。おばあさんからの助言を受け入れて行動を起こすことで、悪魔の計画を打ち破ります。このように、知恵や勇気が難局を打開する鍵となることを示しています。
助けと裏切り: 兵士たちはおばあさんから助けを受けますが、このおばあさんは悪魔の祖母という設定です。ここでは、助けが思いがけないところから来ることや、見かけに惑わされずに人の意図や行動を理解する重要性が描かれています。
道徳的な教訓: 物語はまた、善意や感謝の心を持って誠実に生きることが、最終的には報われるという道徳的な教訓も伝えていると言えます。兵士たちは得た富を悪用せず、真摯に生きた結果、最終的に自由と幸福を手に入れます。
このメルヘンは、欲望と契約の危険性、そして知恵と勇気の重要性を織り交ぜた物語として、多くの解釈を引き出すことができます。
この物語「悪魔とそのおばあさん」は、グリム兄弟によるメルヘンの一つであり、典型的な「取引と解放」のテーマを持つおとぎ話です。この話を言語学的に分析すると、いくつか興味深いポイントが浮かび上がります。
構造とプロット: 物語は典型的な三部構成で進行します。兵士たちが困難を抱えた状況、悪魔との取引、そして最終的な解放。これは多くの民話やメルヘンに見られる普遍的なストーリーテリング手法です。
– 登場キャラクター(兵士、悪魔、おばあさん)はそれぞれの役割に基づいた典型的な性質を持っています。特に、おばあさんは助言者としての役割を果たし、物語の進行を助けています。
テーマとモチーフ: 悪魔との契約や取引は、古典的なおとぎ話のモチーフです。この物語では契約の破棄という要素が強調され、知恵と勇気が報われるという教育的メッセージが込められています。
– 3という数字が繰り返し用いられ、物語の構造やリズムを強化しています。三人の兵士、悪魔との三つの問いなどが例です。
言語とスタイル: グリム兄弟のメルヘンは口承文学が基になっているため、会話調やリズミカルなフレーズが特徴的です。登場人物たちの対話が物語の進行を自然に支えており、読者に親しみやすさを与えます。
– 言葉遊びや音のリズム(例: 「フン、フン、フン」)が物語にリズムとユーモアを加えています。
文化的背景: この物語には、人々が悪魔との契約に対して持つ恐れや、知恵によって困難を乗り越えるという教訓が反映されています。特に、悪魔が契約に拘束されながらも裏をかかれるというストーリーは、道徳的な教えを含んでいます。
このように、「悪魔とそのおばあさん」は、その語りの手法やテーマから、多くの伝統的なおとぎ話の要素を持ちながらも、独自の教訓と魅力を備えた物語と言えます。