子どもたちの読書の時間: 5 分
昔、夜はいつも暗く空が黒い布のようにおおっている国がありました。というのはそこには月が昇らず、星も暗闇に輝くことがなかったからです。世界を創造したときは夜の光は十分あったものですから。あるとき、四人の若者がこの国を出て旅にでかけ、よその国に着きました。そこでは太陽が山のかげに沈んでしまったあと、樫の木に光る玉が置かれ、あたりに柔らかい光を投げかけていました。このため、太陽ほどまばゆくはありませんでしたが、何でもとてもよく見えて、見わけがつきました。旅人たちは立ち止まって荷馬車で通りすぎていく村人に、「あれはどういう明かりですか?」と尋ねました。
「あれはお月さまですよ。」と村人は答えました。「私たちの村長が三ターラーで買って来て、それを樫の木に止めたんです。村長は、いつも明るく燃えるように毎日油を注いでやりきれいにしておかなくてはいけないんですよ。その分私たちは村長に毎週一ターラー払うんです。」村人が行ってしまうと、旅人の一人が「このランプは役に立つぜ。故郷にこれと同じくらい大きい樫の木が一本ある。そこに吊るせるよ。夜に暗闇を手さぐりしなくてよくなれば、楽しいだろうな。」「いいかい、こうしようよ」と二番目の若者が言いました。「荷車と馬をとってきて、お月さまを運んで行こう。ここの人たちはまた別のを買うだろうよ。」「おれは木登りがうまいぜ。あれをとってくるよ。」と三番目の若者が言いました。四番目の若者が荷車と馬を運んできて、三番目の若者が木に登ってお月さまに穴をあけそこに綱を通し、下に下ろしました。
輝く玉を荷車にのせると、誰にも盗んだものがみえないように布をかぶせました。それから、四人は自分の国に無事に玉を運び、高い樫の木に置きました。新しいランプがその光を土地じゅうにそそぎ、寝室や居間が光でいっぱいになると老いも若きもみんな喜びました。小人たちは岩のほら穴から出てきて、小さな赤い上着を着た小妖精が草原でいくつもの輪になって踊りました。四人はお月さまに油がきれないように注意し、芯をきれいにし、週間のターラーを受け取りました。
しかし、四人も年をとり、一人が病気になって死ぬ時が来たとわかると、お月さまの四分の一は自分の財産として自分と一緒に墓に入れるようにと言い残しました。それでこの人が死ぬと市長が木に登って、刈り込み鋏でお月さまの四分の一を切りとり、棺に入れました。お月さまの光は弱くなりましたが、まだ目に見えてわかるほどではありませんでした。二人目が死ぬとまた四分の一がこの人と一緒に埋められ、光が減りました。三人目も同じように自分の分を持って行ったので、その人が死んだあとは光はずっと弱くなりました。四人目が墓に入ったとき、また昔の暗闇に戻り、人々が夜にカンテラを持たないで外を歩くと頭をぶつけあいました。
ところが、お月さまの四つのかけらは、暗闇だけがいつも広がっていた地下の世界でまたお互いにくっついて元通りになりました。それで、死人がそわそわし、眠りから覚めました。死人たちはまた物がみえるようになりびっくりしました。死人たちには月明かりで十分でした。というのは目がすっかり弱っていたので、太陽の明るさには耐えられなかったのです。
死人たちは起きあがると陽気になり、前の暮らし方をしだしました。遊びに出かけ踊るものもあれば、飲み屋に急ぎ、ワインを注文し、酔っぱらって、怒鳴り合って喧嘩をし、果てはこん棒まで持ちだしてお互いに殴り合う者までいました。その騒ぎはだんだん大きく大きくなって、とうとう天国までとどきました。
天国の門を守っている聖ペテロは、下の世界で暴動が起こったと思い、天国の軍勢を集めました。その軍勢は、悪魔と仲間が祝福されている者たちの住まいに押し寄せたら追い返すために使われていたのです。ところが、悪魔たちがやってこなかったので、聖ペテロは馬に乗り、天国の門を通り抜け、下の世界に下りて行きました。そこで死人たちをおとなしくさせてまた墓に寝るように言いつけ、お月さまを一緒に持って帰り、天に吊るしました。

背景情報
解釈
言語
これはグリム兄弟による「月」というタイトルのメルヘン(おとぎ話)の要約です。この物語では、夜が真っ暗な国の住民たちが、偶然訪れた明るい国で「お月さま」と呼ばれる光る玉を発見します。彼らはその月を自分たちの国に持ち帰り、樫の木に吊るすことで夜を明るくします。
物語は、お月さまの管理をしていた四人の若者たちが年老いて死んでしまうと、その光る玉を自分の墓に持っていくことを願い出るという展開に進みます。若者たちが一人ずつ死ぬたびに、お月さまの光は次第に弱まっていき、最終的に国全体が再び暗闇に戻ります。
しかし、墓に埋められたお月さまの破片が地下の世界で再び元の姿に戻り、死者たちはその光で活動を始めます。この騒ぎが天国にも届き、聖ペテロが介入して死者たちを再び眠らせ、月を天に戻すことで物語は結末を迎えます。
この物語は、夜空に月がない国と、夜を明るくするためのお月さまの導入、そして死者の世界での出来事という3つの主要な舞台があり、幻想的な要素と道徳的な教訓を含んでいます。
この物語は、グリム兄弟によるメルヘンの一つで、「月」というタイトルの物語です。この物語のテーマはいくつかの要素を含んでいます。
光と暗闇の対比: 物語の中で、光は知識や生命を象徴し、暗闇は無知や死を象徴しています。旅人たちが月を持ち帰ることで、故郷に光がもたらされ、人々は喜びに満ち溢れますが、最終的にはまた暗闇に戻ってしまいます。
若者たちの冒険とその帰結: 四人の若者が冒険心から月を持ち帰り、人々を喜ばせますが、彼らの利己的な行動(死後に月を分け合うこと)は最終的に故郷を再び暗闇に戻す結果となります。このことで、若者たちの行動が短期的には成功したように見えても、長期的な影響を考慮することが大切だという教訓が含まれています。
死後の世界と再生: 死者の国で月が再び輝くことにより、死者たちは活動を再開しますが、最終的には天国からの介入によって静まり返るという展開です。これは、死後の世界における再生や変化についての興味深い視点を提供しています。
天界と地上の関係: 聖ペテロが天国から地上に降りてきて問題を解決する場面は、天界の存在が地上の出来事に影響を与えるという考えを示しています。これにより、物語は宗教的なテーマを強調しています。
全体として、この物語は、人間の行動とその結果に対する深い考察を含んでおり、単純なファンタジーの物語以上の意味を持っています。
この物語はグリム兄弟によるメルヘンで、月の由来とその影響についての興味深い物語です。以下はこの物語の言語学的およびテーマに関する分析です。
語彙と表現: 物語は古風な日本語で書かれており、「ターラー」や「市長」といった単語は、特定の文化的背景を示しています。
– メルヘン特有の簡潔な表現と軽妙なリズムが見受けられ、読者に親しみやすい印象を与えます。
文法構造: 文の構造は比較的シンプルですが、一部に長い文も含まれ、物語の流れを継続的に伝えています。
– 「~が~し」、「~と~が~する」といった並列構造が多く、物語のテンポを高めています。
人物描写: 登場人物は「若者」「村人」など一般的な役割で呼ばれており、具体的な名前は用いられていません。これにより普遍的なメッセージが強調されています。
テーマと解釈
月の象徴性: 月は光と希望の象徴として描かれています。単なる物理的な光源以上の意味を持ち、共同体にもたらす恩恵と共に、それを失うことの影響を描いています。
共同体と責任: 村人たちは村長にターラーを払い、月のメンテナンスをします。このシステムは共同体が協力して利便性を維持する責任を示唆しています。
死と再生: 若者たちが死ぬごとに月の光が失われ、最終的に元の暗闇に戻りますが、その後地下の世界で蘇ります。死と再生のテーマを扱い、新しい光がもたらす影響を示唆しています。
社会秩序と混乱: 再び地下の世界で光が戻ると、死人たちは騒ぎ出します。この場面は秩序の崩壊を象徴し、光がもたらす両義的な影響を示唆しています。
文化的背景
– この物語には、中世ヨーロッパの社会構造や信仰が背景にあると考えられ、月が天に戻されることで秩序が回復する様子は、当時の価値観を反映しているとも言えます。
このメルヘンは、単なる物語以上に、光と闇、秩序と混乱、そして社会的責任というテーマを深く掘り下げています。